ざわざわ下北沢

2002年9月

「あれ?おれはなんで、ここで映画を観ているんだ??」

「この子はどうして僕を家に入れたのだろう?」

「僕は、どうしてこの子の家にやって来たんだろう?」

「女性の家に入ったらOKAYなもんなのか?」

「僕がここに来たのは、映画を観るためだったのか?」

よくわからない。
僕は、ビデオと一体化した14インチのテレビを見つめながら、彼女とよくわからない映画を観ていた。

タイ料理居酒屋タラートで働いていた僕は、居酒屋の飲み会で彼女と意気投合して、朝まで飲んで歩いて彼女の家に勢いでやって来た。
映画を観ているうちに酔はさめた。
男と女としての展開にもならなかった。

大学4年生、22歳の僕は下北沢の近くの東松原という街で、風呂なし4万円のアパートに住んでいた。
その子の家からは、歩いて20分位だ。
自分の家に戻ると、すぐに寝た。今夜はまたバイトだ。

暗くなる少し前に起きて、下北沢まで折りたたみ自転車を漕いで15分。
線路沿いに自転車を置いて、まず向かう先はコインシャワー。
風呂なしアパートに暮らしている僕にとっては、銭湯の400円は結構高くて、普段は15分100円で浴びられるコインシャワーに助けられていた。

シャワーを浴びて、タラートに着くと早速聞かれた。
「あの後どうなった・・・?」

どうにもなってない・・・。
しかも、その後も彼女とシフトが被る日がなく、特に恋愛に進展することもなかった。
翌月には彼女はバイトを辞めてしまったから、それ以来会っていない。

12月のとある日、3年前に付き合っていた彼女から連絡があった。
10歳年上の元カノだ。
なんでも、結婚するから2次会に参加して欲しいとか。

ウェディングドレスに身を包んだ年上の元カノはきれいだった。
もう二度と彼女と会うこともないだろうに、なんでおれは二次会なんて出席してんだろ。
「たんなる数合わせか。」
そう考えると腑に落ちた。

それからは、大学の卒業制作に本腰をいれはじめたから、バイト以外はほとんど卒業制作に時間を当てる日々だった。
卒業制作の期限はあっという間にやってきた。いつの間にか、僕の学生時代は終わっていった。

2003年4月

就職氷河期も終わろうとしていたが、就職活動に出遅れた僕は、大学卒業後も働く場所がなかった。
だから、昼間も夜も「タラート」で働いていた。
バイトのない日は、就職活動をつづけた。

フリーターって奴だ。

そのフリーター歴も2ヶ月で終止符をうった。

6月から、とうとう働く場所が決まったのだ。

場所は中央区銀座にある。
商業施設設計の会社・・・

と思って就職したら、施工の会社だった。
しかも、社長は在日韓国人と来た。

新卒で、なにもわからない状態で、いきなり現場に投げ出された。
一日12時間労働は当たり前で、就職してからは、あっという間に1日1日が過ぎていった。

2006年11月

仕事が半日で終わったから、数年ぶりに下北沢に一人できた。
南口の駅前をでると、叫び声が聞こえてきた。

「うぉぉぉぉぉおおっ!!」

「ぐうぉぉおおぉぉっ!!!」

近づいてみる人だかりができてる。

ケンカかなぁ?

でもなんだか、楽しげな雰囲気

なんか、漫画かな手に持って乞食のようなおじさんが叫んでは、まわりの人たちが爆笑してますっ(((゜д゜;)))

もっと近づいてみると、

セル……

ド、ドラゴンボールだっ!

変なおじさんがドラゴンボールを朗読してる。

とにかく、効果音が面白いっ!!

寒いのに人が集まるわけだぁ。

すっげえ、バカバカしいんだけど、なんだか癒やされる。

やっぱり下北いいなぁ。
下北に帰りたい。

自分がタラートで働いてたのはもう4年位前か。
タラートは地下にある。その建物の1階に雑貨屋が入ってたんだけど、いまは靴屋になってる。

「あ~あ、雑貨屋なくなってる・・・。」
って思ってたら

あらあら、地下から知ってる顔の女の子がでてきた。

おれより一つ下の子で、もう学校卒業してるはずなのになぁ

「○○ちゃん!」

って思わず声を掛けた。

「あー!」

って、覚えてもらえていたらしくて
よかった。

ちょっとだけ話しをして
「今度店来てねー!」
って忙しそうに去っていった。

ムカつく社員もいたけど、働いてるときは結構楽しかったな。
学生の時は、センシティブだったし、やりたいことがたくさんあった。
とにかく、興味があることなんでもやった。
いろんなことが中途半端で終わったけど、それはそれで楽しかったから良いかな。
どーしょうもなく、貧乏だったけど。

ところで、ざわざわ下北沢っていう映画がある。

ざわざわ下北沢 [VHS]

エピソードとしての映画ではなく、下北沢の良さをある若者達を通して映し出した作品。
物語を楽しむのではなくて下北を楽しむ映画という方がいうべき映画かな。
でも、なんか心があったかくなる映画。それは、下北が潜在的にもつ街の力なのかな。
僕が学生の頃は、下北沢には下北らしさが残っていた。

2016年8月

日本に帰国してきたついでに、下北沢に来てみた。
下北沢の駅は、長らく改修工事を続けている。僕の思い出の下北沢は少しずつ変わりつつある。
しかし、相変わらず人が多い。元気な街でいてくれたのはうれしい。

ちょうどポケモンGOが配信されたばかりで、ポケモン探しの若者がたくさんいた。
朗読オジサンはいなかった。

今思うと、この下北沢時代に遊び癖がついた。

この頃もっと勉強していれば・・・と最近よく思う。

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